企業価値に対する関心が高まっています。国境を問わないグローバル資本主義が進展する中、持続的に企業価値を創造できなければ、市場から淘汰される時代になりつつあるためです。しかしながら、過去25年間、日本企業は持続的に価値創造ができているとは言い難い状況にあります。こうした状況に陥った主たる理由として、企業価値創造の知識やスキルを修得したうえで、長期的な視野で事業や経営を構想できる人材が日本企業に十分に育っていないことがあげられます。とりわけCEO(最高経営責任者)の「女房役」あるいは「参謀」の役割を担うべき、経営者としてのCFO(最高財務責任者)が育っていないことが大きな課題です。
政府も成長戦略の柱として「稼ぐ力」を高めることの重要性をうたっています。また2014年8月に経済産業省から公表された「持続的成長のための競争力とインセンティブー企業と投資家との望ましい関係構築―」(伊藤レポート)も中長期的な企業価値創造のためにCFO人材の育成が急務であることを指摘しています。また日本版スチュワードシップのもと、今後は投資家との「対話・エンゲージメント」も経営者に求められます。
一橋大学はこうした背景と問題意識のもと、2015年1月より大学院経営管理研究科内に「一橋大学CFO教育研究センター」を創設し、JPX・東京証券取引所と連携し、CFOを養成するHFLP(Hitotsubashi Financial LeadershipProgram)を開始します。
本プログラムが目指すのは、目先の問題にとらわれず、持続的な企業価値の創造を実現するため、長期的な視点で経営を深く構想し、企業を本質的に変革させることができる価値創造リーダーの育成です。この要請にこたえるため、本プログラムHFLPは、以下の3つの特徴を有しています。
第1に、財務リテラシーにとどまらず、経営哲学、戦略、組織、法律、金融、M&A、資本市場など企業価値創造に関連した最先端の知識・スキルを横断的に修得できる点です。ケース・スタディーやCFO およびCEO との率直で真剣な対話・討議を通じて、いかに「稼ぐ力」を高め、持続的価値を創造するかというテーマを追求します。
第2に、企業価値創造をめぐる最先端の研究成果をプログラムに反映させている点です。一橋大学大学院経営管理研究科が国内外の一流研究者や海外のトップビジネススクールとの連携を通じて生み出した最先端の企業価値創造に関する理論的研究成果をプログラムに反映させていきます。
第3に、日本における企業価値創造をめぐる濃密な人的ネットワークの構築を目指しています。企業価値創造の最前線で活躍するCFOやCEOのみならず、リスペクトされている機関投資家、投資銀行家、資本市場運営者、証券アナリスト、M&Aアドバイザー、公認会計士、弁護士などに講師として登壇いただき、異業種交流も含めた、濃密なネットワークが構築できる「場」づくりを意識したプログラムとなっています。
欧米でも、企業経営の短期志向(ショートターミズム)に対する懸念が増幅しています。こうした観点から、日本の経済社会のみならず、世界的に見ても、目先の問題にとらわれず、本質的な観点から、企業の長期的な構想を考え抜き、持続的な価値創造を牽引する価値創造リーダーの育成が喫緊の課題といえるでしょう。私たちは、JPX・東京証券取引所と連携して、日本経済を、ひいては世界経済を牽引する価値創造リーダーの育成を目指します。